損失回避性
損失回避性とは自分の「利益」と「損失」では「損失」の方がより強く印象に残り、それを回避しようとする行動をとることをいいいます。
本章の記述は、経済学者の小川一仁氏らによる『実験ミクロ経済学』(東洋経済新報社、2012年)に基づいています。
賞金がもらえるくじ
あなたの前に、「くじA」「くじB」という2種類のくじがあるとします。どちらのくじを、より「欲しい」と思うでしょうか?
【Q1】くじA:100%の確率で4,000円をもらえる くじB:80%の確率で5,000円をもらえるが、20%の確率でハズレ(0円)。 |
「くじA」を選べば、必ず4,000円が手に入ります。対して「くじB」は、20%の確率で外れるものの、もし当たれば「くじA」よりも1,000円多くもらうことができる。
さて、あなたはどちらを選びましたか? おそらく、よほどのギャンブラー気質でないかぎり、ハズレのない「くじA」を選んだのではないでしょうか。
このクイズの不思議なところは、「くじA」と「くじB」の期待値が同じであるにもかかわらず、なぜか「くじA」を選びたくなってしまう点。期待値というのは、くじやギャンブルにおける「賞金額の平均」を表す値で、「報酬×確率」の式で求められます。
「くじA」の期待値:4,000円×1=4,000円 「くじB」の期待値:5,000円×0.8+0円×0.2=4,000円 |
どちらのくじも、期待値は4,000円。つまり、確率論的に考えれば、どちらのくじを引いても一緒のはず。
にもかかわらず、実際の心理としては、「くじAがいいな」となぜか感じてしまう。この矛盾は、なぜ生じるのでしょうか? これが、プロスペクト理論以前の経済学では説明できなかった、1つ目の疑問です(疑問1)。
罰金を払わされるくじ
別のくじについても考えてみましょう。再び、「自分ならどちらのくじを選ぶか?」と考えながら読み進めてください。
【Q2】くじA:100%の確率で4,000円の罰金を支払う くじB:80%の確率で5,000円の罰金を支払うが、20%の確率で罰金なし |
「くじA」を選ぶと、必ず4,000円の罰金を払わなくてはなりません。一方、「くじB」では、高確率で5,000円の罰金を支払うリスクがある代わりに、20%のアタリを引けば、何も支払わなくてよくなります。
あなたなら、どちらを選択しますか? おそらく【Q1】とは反対に、多くの人は「必ず4,000円支払うなんて馬鹿馬鹿しい。まだ20%のアタリがあるほうがマシだ」と考えて、アタリのある「くじB」を選んだはずです。
この【Q2】でも、【Q1】と同様の問いを立てることができます。「くじA」「くじB」の期待値は、どちらもマイナス4,000円。それなのに、どうして「くじB」のほうが良いと感じてしまうのでしょうか?(疑問2)
【Q1】と【Q2】を見比べると、もうひとつ疑問がわいてきます。賞金がもらえる【Q1】では、リスクのないくじAが、罰金が課される【Q2】では、リスクのあるくじBが好まれる傾向にありました。賞金と罰金の違いこそあれ、金額も確率も同条件なのに、なぜ【Q1】と【Q2】で結果が逆になるのでしょうか?(疑問3)
このように、私たちの意思決定は、論理的に分析してみると数々の矛盾をはらんでいます。つまり、私たちは確率や金額といった客観的数値だけから合理的に(コンピューターのように)判断しているのではなく、感情や感覚などのノイズによって、少なからぬ影響を受けているのです。
【「くじ問題」の疑問まとめ】【Q1】について、くじAとくじBの期待値は同じなのに、なぜくじAを選びたくなるのか? 【Q2】について、くじAとくじBの期待値は同じなのに、なぜくじBを選びたくなるのか? 「賞金か罰金か」以外は同じなのに、【Q1】と【Q2】で選ばれるくじが反対になるのはなぜなのか? |
損失回避性を考慮した販売トーク
商品の「欠点」になる箇所を、あまりにもダイレクトに伝えすぎると、「…だったら、要らないわ」となると言えます。
・NGトーク お客様「これって、どこのメーカー?あまり聞いたことがでないわ」 販売員「これは日本のメーカーなんですけど、出来てまだ15年くらいのメーカーさんでして…。あと、製造は『中国』で行っているんですよ。だからお安く提供できるんです」→販売員は悪意なく話している。 ・Goodトーク 販売員「これは日本のメーカーさんなんです。ちょっと面白いなとお客様が感じられる製品や、お客様のあったらいいな、ということにお応えしようと製品開発を企画からされているメーカーで。お客様、テレビの通販で出ている○○って商品ご存知ですか?あれもこのメーカーさんの製品なんですよ。」 お客様「じゃ、どこで作っているの?」 販売員「やはり、コストの問題がございますので、ほとんどの大手メーカーさんが海外拠点で生産しているように、こちらも「中国」です。しかし、保証などは国内メーカーなのでしっかりさせて頂いております。」 |